貴女が頼らずと好いじゃあ有りませんか。
それに恭のほんとの心は知れませんからね。
表面は好い様なおべんちゃらを並べて心じゃ何と思って居るか分りゃあしない。
又恭がそう真面目に思って居たって周囲の人は単純にそれ丈の事として見るものじゃあ有りません。
何にもしないで食べる人を一人世話する事はなかなかなんですからねえ、いくら田舎でもしっかり仕なきゃあだめですよ、ほんとに、お久美さん。
「ええ大丈夫よ。
何ぼ私だって、そんな嘘のような言葉を信じるもんですか。
「いいえ、そう今は云ってますけれどね。
人って妙なもので始終始終顔を見て居るとどんなに始めはいやだと思った人でも気にならなくなる様なもんだから、あんまり云われると、つい気がぐらついて来ないもんでも有りませんよ。
貴女みたいな暮しをして居る人は、しっかり自分と云うものを分らせて居なきゃあいけないわ。
どんなにお関にひどくされたって不仕合わせだって、ちゃんとしたお嬢様なんだもの。
雇人風情に情けをかけてもらいたい様な、又同情されたい様な様子を決して仕ちゃあいけませんよ。
しゃんと御主人らしくして居なけりゃあいけない。
向うから気の毒に思って呉れたら只それだけを受けて居れば好いんですよ、ねえ、お久美さん。
なさけに餓えて居る様な素振りを一寸でも出してはいけませんよ、ほんとに。
質の悪い者なら皆そんな所へ足掛けをつくるんだから。
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※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は此村の若者の中では何方《どちら》かと云うと目に立つ程調った容貌と言葉を持っている二十三四の恭吉の姿を思い浮べながら、単純な頭で其を見て種々に感じて居るお久美さんを不安に思い出して来た。
※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は、
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「私をそんな馬鹿だと思ってるの。
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とお久美さんが云うまで幾度も幾度も繰返して「不仕合わせだと云って卑屈になってはいけない」とか「自分はちゃんとした位置の者だと思って居なければいけない」とか心配そうに云って居た。
身動きもしない様にして二人は日影が傾むくまで草に埋まって話をして居た。
五
お関の嫉妬深い事は此の村でも有名であった。
山田の主人に用談が有ってもお関を通じてでなくてはうっかり口も利けない様なのを皆は笑い草にも鼻つまみにも仕て居たが、どう云う生れでどんな経歴のある女だか等と云う事は知る者が無かった。
けれ共此の村が明治二十年頃開墾されてじきに、山田の主人と一緒に皆と同じ様に軽い荷と、頼り少ない財布でY県から普通の移住民として入って来て以来のお関は、もう二十年以上も絶えず噂の中心になり陰口の種にされて面白くもない日を送って居た。
お関はY市の小機屋の娘であった。
女二人限りの姉妹でありながら、性質がまるで異って居て、妹のお駒と云った五つ違いの娘と同じ腹から産れた者とは思えない程であった。
お関は負け嫌いで小さい内からかなり身巧者に働いた代り何か気に入らないと、引きつめに毛の根のふくれる程きっちり銀杏返しに結って居るお駒の髷をつかんで引っぱったり、後からいきなり突き飛ばして、小柄な妹が毬の様に弾んで行って突調[#「調」に「(ママ)」の注記]子もない柱等にいやと云う程体を打ちつけて泣き出したりするのを見て面白がって居た。
近所では「あばれ娘のお関坊」と云う名を付けられて居たけれ共その文盲な親達はせっせっせっせとお関の働くのを何よりと思って居たので、
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「家のお関も手荒らですが働きますからこんな貧亡[#「亡」に「(ママ)」の注記]者には下されものですよ。
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と自慢さえして居た。
そして何でも内場[#「場」に「(ママ)」の注記]に内場[#「場」に「(ママ)」の注記]にと振舞って体なども親に似げなく骨細に出来て居るお駒を却ってどうでも好い様に取り扱かって、祭りの着物なども、
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「姉ちゃんは働くからな。
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とお駒に去年のままをあてがって、お関にだけは新らしいのを作ってやったりするので益々図に乗ったお関は家中の殆ど主権者と云って好い位|自惚《うぬぼ》れて勝手気ままに振舞って居た。
何にしろそう大して織物の出ると云うでもないY市のしかも小機屋であったお関の家が年中寒い風に吹かれて居たのは明かであった。
朝から晩まで母親と父親と小さいお関までかかって、ギーッパタン、ギーッパタンやって居たところで入って来るもの等は実に軽少なので、片手間に畑を作ったりして居たけれど、段々娘になって来る二人を満足な装もさせられないので、十七の年お関は仲間の者の世
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