]子はどこへ行きましたろう。
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と黒い中をすかし込むので出場を失った気味で居た※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は漸《ようよ》う次穂を得た様に出て行って、
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「今晩は。
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と御辞儀をした。
祖母丈だと思って居たらしいお関は年に合わない肝高な浮々した声を出して、
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「まあ何だろう、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子さんも居らしったんですか。
そんな所に居らっしゃるんだもの、一寸も分りませんでしたよ。
さ此方へいらっしゃい。
ほんとにまあよく居らしったのね。
いつ東京からお出でなすったんです。
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と立てつづけに喋り出した。
※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は薄笑いをしたまんま縁側に腰をかけて背を丸めて煙草を吸いつけている祖母の傍に座った。
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「まあお※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]さん。
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と押しつけた様な声で云ったきり動いて来ようともしないでじいっと此方を見て居るお久美さんは一番奥の方にいつもの装《なり》をして座って居た。
髪を洗ったと見えて長くばあっと散らしていつもの白いダブダブを着た膝を崩して居るので二つのムクムクした膝頭やそれから上の所が薄い布の中ではっきり盛り上って居て、ゆるい胸の合わせ目から日焼けのした堅い胸がクッキリと出て居る様子は、まだ漸う十五六の小娘の様に無邪気らしくて、とても※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子より二つも三つも年を重ねた人とは見えなかった。
丸々した指を組み合わせて膝の間に落し、少しかがむ様にした上半身のこだわりのない様子、狭いけれ共、形のまとまった額つきが、髪の生え成りを大変器用にまとめて居る。
半年振りで会うお久美さんの体の中には先にもまして熟れたリンゴの様な薫りが籠って居る様で、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は胸が躍る様な気持になりながら麗々しい髪の一筋一筋から白い三日月の出て居る爪先までまじまじと眺め入っては折々目を見合わせて安らかな微笑みを交して居た。
※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の顔を一目見た時お関の心の中には口に云い表わせない悩ましさが湧き上った。
自分が受取ってかくして仕舞った二通の※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子からの手紙の事も、又此れから二月もの間自分の意志[#「志」に「(ママ)」の注記]を焼く様な事許りを二人でするのだろうと思ったりして、どことなく心《しん》のある様な身のこなしを仕ながらお久美さんに許りは変らない上機嫌の顔を見せて居る※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子が腹立たしくて腹立たしくてならなかった。
まして、久々で東京から来たのに手土産一つ持って来ない事も気を悪くさせる種の一つになって居た。
お関は年寄と話しながら絶えず二人の方を視て居た。※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子が今年の正月頃用事で五日程来て居た頃にはまだ髪なんかも編み下げにして着物の着振りでも何でもが如何にも子供子供して居たのに、急に肩付がしなやかになって紫っぽい薄地の着物を優々しく着てうっすりお化粧をしてさえ居る今の※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子を見ると、お関は堪えられない程のねたましさと憎みを感じて居た。
妙に二つ分けにした髪が似合って居る事も気に入らなかった。
お関は二人が口を利き出すのを待って居た。
何か云い出したら此方に話を引っぱって困らせてやろうと云う明かに意識される程の毒々しい期待で、喉元まで声を出し掛けて居た。
そして一方では※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子に自分の心を知らさないために盛に年寄と喋った。
張り切った心で半分覚えない様に小作人の噂をして居た時不意に※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は低い声で、
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「お久美さん一寸。
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と云い出した。
それと同時にお関は風の様に※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の方を向いて、
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「ああそう云えば、ね、お※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]さん。
東京ではこの頃どんな浴衣が流行って居ましょうね。
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と云うなり口元には、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子が気づいて不快を感じた程小気味の悪い満足の微笑がスーッと上った。
チラリと目
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