でしょう。
「ええ、大抵四五日だって。
「じゃあ毎日家へ来て居らっしゃい。
「駄目よ。
 辻さんの所へ行って居なけりゃあならないから。
「どうして。
 ずうっと行ってるの。
「ええ帰って来るまで。
「まあ、そう。
 そいじゃあ仕様がない。
 ああ、そうそう、
 この間木曜に大騒ぎだったんだってねえ。
 貴女何ともなかったの。
 心配したんですけどねえ、私も丁度工合が悪かったもんで行かれもしなかったけれど。
「なんでもなかったのよ、
 彼那事。
 伯父さん達があんまりな事を仕たんだから、あたり前だわ、あの位されるのは。
「そんならよかったけれど、
 あの一寸前の日に貴女の所へ行ったんだけれ共、彼の人に追い帰されて仕舞ったのよ、
 貴女が町へ行って留守だって。
「あらまあ、一体いつなの、それは。
 この頃、私、町へなんかちっとも行かないのに、随分ね。
 会わせない積りでそんな出鱈目を云ったのね。
「きっとそうなのよ。
 私もそうだと思ったから何んでもない様な顔をして、
 『そうですか』
 ってさっさと帰って来た。
 私がきっと捜したり何かするだろうと思って居るんですからね。
「ええ、そりゃあそうだわ。
 困らして見たくて仕様がないんですもんね。
「だから当をはずさせて遠くの方から見て居るんです。自分の思う様に困ったりがっかりして呉れないと彼の人はもうもう世は末だと思うんですよ。
「ほんとにね。
 でも考えて見れば、彼れもやっぱり気違いに違いないわね。
 私どうもそうらしい。
[#ここで字下げ終わり]
 二人は他意の無い気持に成って笑った。
 お久美さんの歯はいつもの通り堅そうで美くしかった。
 けれ共今まで一度も見た事の無い表情がのびやかな眉の間にも輝いた頬にも漂うて居るのを見付けた※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は不思議さに眼を見開いた。
 歓楽の音ずれを待ちあぐねて居る様な緊張と物倦い倦怠とが混乱したなまめかしさが如何にも若々しい弾力の有る皮膚を流れて、何物かに心を領されて居る快い放心が折々、折々其の眼をあて途も無い様に見据えさせたり、夢の様な微笑を唇に浮べさせたりした。
 ※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は明かにお久美さんの霊を宇頂天にさせて居る何かが有るのを知ると共に、常とまるで異って感じの鋭くはでやかに成って居る顔を
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