分の頭に萌えて居る計画を話した。
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「ウン、そりゃあよかろ。
そんな訳合ならよく私も気をつけてやろ。
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お関は母親に二人の癖なり顔立ちなり身ごなしなりを非常な正直さと熱心で比較させた。
如何にも重三の顔は土臭かったけれ共お関とはまるで異った骨骼と皮膚とを持って居た。
離れたっきりで居たおかげで何一つとして同じ癖は持って居ない。
まるで赤の他人同様だと見えたのである。
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「ほんに好い都合じゃ。
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満足した囁きが又繰返され、お関は喜悦と一種の好奇心に胸を一杯にして機嫌よく帰って来た。
それから後も屡々山田の主人は養子の事を云って居ると、お関が行って来てから三月目にY県の実母から手紙をよこして、
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「矢吹さんの息子が二十六になって居て、次男でもあるしするからどこぞへ行きたいと云うてなさるが。
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と云って来た。
お関は平静な気持で、
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「まあ矢吹の重ちゃんが其那にもなりましたかねえ。私の家に居た頃はまだほんの水っ子だったのにね。早いもんだ。
私の婆さんになるのに無理はない。
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等と主人に話して行った。
山田は、矢吹の士族である事にすっかり気を引かれて、
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「そうかい。そりゃあ好い。
士族なら申し分はないな。此那に落ちぶれても元は斬り捨て御免の御武家さんじゃったんだから、平の土百姓からは養子も出来んと思うとった。
なあお関。
捨てる神あれば拾う神ありじゃわい。
それにお前も前方から知っとりゃ情も移ると云うもんだ。
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と非常な満足でお関の母の心遣いをよろこんで居た。
八
その前から※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の祖母は町の或る商人にかなりまとまった金を貸して居た。
その男の娘が一年程家に来て居た事から泣きつかれて、今其れだけ拝借出来なければ一家散り散りばらばらに成って仕舞わなければなりません、とか何とか云うので、人だすけだと云って祖母が東京へは無断で出してやったのだった。
きっと御返し致しますと証文まで書いた正月が過ぎてから幾度催促をしても寄さないので、誰か仲に入ってちゃんと
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