んで仕舞った。
二人は泣いても叫んでも仕様がないので、前の通り奉公をつづけ、哀れな母親は独りで僅か許りの畑と機物で口を過して居る様になった。
別にそう大して悲しがるでもないお関を見て主婦等は、
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「こちらを一生の家にさせて戴きますのですから。
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と云うお座なりをまんざらの偽とは聞き流さなかった。
山の彼方で母親ばっかりが淋しく暮してお関が十九に成った時急に思いも掛けず手紙だの人だのをよこしておしむ主婦の言葉に耳もかさない様にしてお関を連れ戻って仕舞った。
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「私ももう年も年でございますし、誰一人相談相手のありませんのは淋しくて堪りませんから御無理でしょうが。
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と母に云わせて実家へ帰ったお関は六七ヵ月すると大きな赤坊を産んだのであった。
お関はその子が男で有った事、重三と母親が付けたと云う事丈は知って居たが、碌に顔も見ずにすぐ近い村へ里子にやって仕舞った。
六
口を利く者が有って山田へ来たのはお関の二十の時であった。
当時もう四十二三に成って居た主人はお関が来るとすぐY町[#「町」に「(ママ)」の注記]から今居る村に移ったのであった。
口利きが確かだからと云うので理屈なしに嫁入って来たお関は勿論自分の夫がどんな人柄だとか何が仕事か等と云う事は余り聞きもしず居たのだけれども愈々一つ家に住んで見ると流石のお関もあきれずに居られない様な事ばかりであった。
一定の仕事の無い上に絶えず目算ばかり立派に立てて居る主人は何一つとしてまとまった事にはせず、年が年中貧亡[#「亡」に「(ママ)」の注記]に攻められながら「今に何かやって見せるぞ」と云う二十代からの望みをはたすためにあくせくして居た。
けれ共彼のする事は皆人並を脱れた事ばかりで、出放題な悪口を云って見たり借り倒したり、僅か許りを小作男に賃貸してやって期限に戻さないと云って泣いてたのむのを聞かずに命より大切がって居る一段にも足りない土地を取って仕舞ったりして居たので、遠慮のない憎しみが山田の家へ村中から注ぎかけられて居た。
若し山田の夫婦がもう少し人間並であったらもうとうに此の村等には居られない程長い間には種々ひどい事も云われて来たのだけれ共、図々しくなって居るお関と無人格な様な主人の耳にはかな
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