て、さっき※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子が居た所に又並んで座った。
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「今日は随分暑いわねえ。
 こんなじゃあ八月になるのが思いだわ。
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 お久美さんは頬を火照らして平手で押えたり袂の先で風を送ったりして居た。
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「そうでもありませんよ。
 風がよく通るんですもの。
 そんなじゃ東京へでも出て一夏送ったら暑い暑いで死んで仕舞いますよ。
「そう云えばそうだけれど……
 そんな事云ったって貴女だって矢っ張り、暑うござんすね暑うござんすね、まるで体中燃えてきそうだっておっしゃるじゃあ有りませんか。
 駄目よ、誰だって暑いんだもの。
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 二人の間には罪の無い笑い話が取り交わされた。
 祖母の家へ来てから余り吐き出されないで居た持前の「おどけ」が後から後からと流れ出して、体も心も彼の青い空と水の中に溶け込んで仕舞った様になった※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は、思う事も云う事もないと云う風にお久美さんを見ては満足の笑を浮べて居た。
 頭をかしげて池と※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子を半々に見て居たお久美さんはいきなり「ああそうそう、私どうしても貴女に伺おうと思って居た事が有る」と云い出した。
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「あのね、先月の始頃私の所へ手紙を下すった事があって。
「先月の始め頃?
 どうして、私はっきり今覚えてないけれど。
 どうかしたの。
「いいえね、
 伯母さんがどうも手紙をかくすらしいのよ、
 大概のはね、受取ったものが私ん所へ持って来て呉れるけれど、誰も居ない時来たのは皆どうかなってしまうんじゃあ有るまいかと思う。
 何故ってこないだ貴女の行らっしゃった二三日前にね、何心なく伯母さんの針箱の引出しを明けたら何だか書いたものが小さく成って入ってるんでしょう。
 悪いと思ったけれどそうと出して見ると貴女のお手紙なのよ。
 私もうほんとにびっくりしちゃったわ。
 だってね、捨てる積りだったと見えて幾つにも幾つにも千切って順も何もなく重ねてあったんで、どんな事が書いて有るんだか分らなかったのよ。
 よっぽど出して知らん顔をして居ようかと思ったけれど、何だか怖いからそのまんまに仕て置いたけれど。
 貴女覚えて居ら
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