た。
 活々した葉が真昼の日光に堅く輝く桑の木の間を通って居る一番池への近路の畑中を抜けて、胸の高さ位の上を通って居る往還に登るとすぐ前を走って居る小川の土橋を渡った。
 渡り切った所はもう池である。
 力強い日が池の水面に漲り渡って、水浴をして居る子供達の日焼けした腕が劇しい水音を立てて水沫を跳ね飛ばしながら赤く光って、出たり入ったりして居る。
 鋭い叫び声とバシャバシャ、バシャバシャ云う音に混って如何にも愉快な木の葉ずれが爽やかに※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の躰を包んで、夏の嫌いな※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子にも「此処許りは」と思わせた。
 向うの道から来るお久美さんに先[#「先」に「(ママ)」の注記]ぐ見つかる様にと、往還に沿うて続いて居る堤の青草の上に投げ座りをして体の重味で伏した草が白い着物の輪廓をまるで縁飾りの様に美くしく巧妙に囲んで居るのを見たり、モックリと湧き上った雲の群の前にしっとりと青い山並が長く長く続いて、遙かに小さい森や丘が手際よく取りそろえられて居るの等を眺めながらお久美さんの足音を待って居た。
 お久美さんの姿が※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の目に入るまでには大変に長い時間が立った。
 恐ろしく長い間待って居たと※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は感じて居るのであった。
 心持上半身をうつむけて暑い中をせっせと歩いて来るお久美さんの紺色の姿が※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の目に入ると、彼女は弾かれた様に立ち上って、微笑のあふれる顔を真直にお久美さんを見ながら半ば馳ける様に出迎に行った。
 両方から急いで二人はお互に思ったより早く堤の終る所で会う事が出来た。
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「まあよく来られた事。
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 ※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は手をお久美さんへ延しながら安心して震える様な声で云った。
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「沢山お待ちなさって。
 伯母さんの出掛け様が遅かった上に今まで役場の人が来て居たんで……
「そう、
 大丈夫よ、幾らも待ちなんかしない事よ。
 私だって今一寸前に来たんだから。
「そう、そんなら好いけれ共。
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 二人はゆるゆると歩い
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