第3水準1−91−24]子は好く自分を知って呉れる二親もあり物質的の苦労を殆ど知ら無いと云って好い位の幸福な日を送って居るのに、お久美さんは二親は早く失くし兄弟も友達もなくて、心の人と異った伯母に世話をされて居た。世間知らずで有るべき年の※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は山程積んで目を覚すとから眠るまで読んで居た非常に沢山のお話で、継母の辛さ、又は他人の家へただ世話になって居る小娘の心づかいをよく察しられる様になって居たので、自分の家のない事父母の死んだ事は甚く同情すべき事に感じられた。
友達のむずかしい※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子が此んな人を此上ない者に仕て居様等とは誰も思って居なかった。
一時はお久美さんの事を話して、
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「まあ貴女がそんな方と仲よしになって居らっしゃるの、
ほんとに思い掛けなかったわ。
「ええそりゃあほんとうよ。
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と、友達共が阿呆な目をしてびっくりするのが面白くて、やたらと自分とお久美さんの事を喋り散した事があった。
けれ共或時何かにつれて、人を驚かす材料に自分の一番大切な人を使って居たと云う事が非常に下等な恥かしい事に思えたので暗闇に座って此上なく改まった気持で、
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「お久美さん御免なさい。
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と云った時以来人にきかれた時以外にお久美さんのおの字も口から出さなかった。
そしてだまって居れば居る程自分に対するお久美さんが高まり尊く成りまさって行く様に思って居た。
十四位の時、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は丁度何でも世の中のすべての事に神様だの自然の大きな力を感じてどんな物にでも感歎せずには居られない心の状態にあった。
そのためにお久美さんにやる手紙の中に、まるで祈祷を凝す様な気持で、
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私共はまだ生れなかった先から今日斯うあるべき運命が神様から授けられて育ったのだと思うより外考え様がないと思います。
まるで見知らなかった二人の小さな子供が、彼那に急に彼那にしっかり彼の時彼処で結び付けられたと云う事は只偶然な事の成り行きだと云えましょうか。
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と云ってやった事があった。
勿論その意味が※[#「くさかんむり/惠」、第3水準
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