噺を※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は息も吐かない様に話して聞かせたりした。
今でも※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は何かの折に葡萄などを見ると、其の時の二人の幼ない様子と、あの甘く舌に溶ける様だった実の事を思い出す事が有る程、嬉しい、まあよかったと思った会合であった。
其の次の日っから二人は一日の大抵は一緒に伴立って前の小川に魚を取りに行ったり、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の部屋で沢山ためて持って居たカードだのお伽噺の安本などを見て遊んで居た。
乗気になって明けても暮れてもお久美さんが居なけりゃあ生きてる甲斐が無いと思い込んで居た※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は、自分が桃色のリボンで鉢巻の様にはでな頭飾りをして居るのに比べて大切なお久美さんの頭はあんまり飾りないので、持ちふるしたのですまないと思いながら、うす紫に草花の模様のあるのをあげて、貴方も私みたいな髪におしなさいおしなさいと云ってもどうしても聞かなかったお久美さんは其れを桃割の髷前に頭からダラリと下る様に掛けて居た事なども有った。
自分が折角よい様にさせて上げ様と思うのにきかれなかったり妙な眼付をして、
[#ここから1字下げ]
「お※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]ちゃんの髪は何て云うの。
暑いでしょう。
随分妙な結い方ねえ。
[#ここで字下げ終わり]
などと云われると、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子はすっかり悲しくなって仕舞って、長く遊んで居るときっと又厭になるだろうからもう明日から来ても会いますまいと思う事が十度に一度は無いでは無かったけれ共、一度お久美さんの口から其のまるでお話の様に可哀そうな身上話を聞いてからと云うものは、年に似合わない真面目さが加わって、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は、どんな事が有っても私はお久美さんを大切によくしてあげなけりゃあならない、そうするために私共は仲よしに成ったのだと思いきめて仕舞った。
その気持が今日になるまでざっと七年程も確かに取り守られ保たれて来ようとは※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は勿論お久美さんにしろ思いも掛けて居なかった事である。
※[#「くさかんむり/惠」、
前へ
次へ
全84ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング