水準1−91−24]子は両親が有って而も大切がられて、かなり暖かな気持に包まれて居てさえ此れ程感動するのに、不幸が離れる事のない哀れな暮しをさせられて来たお久美さんは自分の倍も倍もどうか有りそうなものだのに「若しかしたらそれを感じない程に荒んだ気持になって居るのでは有るまいか」と云う歎かわしい疑が一寸※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の頭に閃いたがそんな事は瞬きをする間に消えて仕舞って※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は純な涙を瞼に一杯ためて、尊い話でも聞く様にお久美さんが甘えた口調でゆるゆると話し出すのを聞いて居た。
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「伯母さんが何か彼にか云っていやだからあさってのお昼っから池の所で話をしない事?
丁度いい塩梅にS村の叔父さんの所へ行くんですって。
「まあそう、そんなら行きましょう。
ゆうべは私もう腹がたって腹がたって居たたまれない様だった。
貴女幾時頃まであんな所に行かせられて居たの。
帰りしなによって行こうかと思ったらあのいやな人ったらわざわざ土間に下りて見てるんですもの駄目だったのよ。
「何でもよっぽどおそくまでだった事よ。
私が上って来ると、
『お※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]さんはお帰りだよ』
と云って大きな声で笑ったのよ。
私あんまりだと思ったからニコリともしないで居たけれ共何故あんなに邪魔が仕たいんでしょうね。
私にはどうしたって気が知れないわ。
「彼の人のは病気なんだもの。
「だってひどすぎてよ。
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お久美さんはお関が変にやっかんで手紙の遣取りも会って話をするのもいやがって何ぞと云っては茶々を入れると云う事をおだやかなそれで居て思い入った口調で話すのを聞いて居る内に※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の心はすっかりその一語一語に引き込まれて仕舞ってどんな事があってもお久美さんの云う事に塵程の間違いもない様に思えた。
自分の云う丈の事を話すとお久美さんは、あんまり遅くなるとよくないからと帰り仕度をし始めた。
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「もう少し位居たって大丈夫よ。
まだ十分位ほかなりゃあしない。
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と※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子が止めても、
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