いのちの使われかた
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)家庭の女の用事[#「女の用事」に傍点]と
−−
わたしたちが、ほんとに人間らしく生活したい、という希望を語るとき、誰がそんなことは生意気な望みだというだろう。みんな、わたしもそう思う、と答える。
ところが、実際の毎日の生活で人間らしく生きるということは雑作ないことだろうか。決してそうではない。こんにちの日本のすべての事情は、人間らしく生きるということに必要ないろいろの条件を欠いている。食糧の問題、住宅の問題、交通の問題そのほか。
いまの日本に特別つよくあらわれているそれらの困難については誰しも十分知っているけれども、勤労する人々の生活にとっては更にもう一つ深刻な問題がある。それは時間の問題である。
「時間は人間成長の箱である」そういう有名なマルクスの言葉がある。マルクスは、この詩人が言いそうな言葉を、賃労働の研究をした経済の本のなかに書いている。人間の一生は、それが一生として語られる本質から、時間の枠で押えられている。よしんばそれが八十年であ
次へ
全5ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング