けた。そのA級が大部分、役人にいわせれば禁止A級に入れられていた。役人が執筆させたいAの方には、通俗的また軍国的文筆家が大多数を占めていた。

 軍事行動邁進の三年という年月に、ジャーナリストたちの自立も弱められた。新聞は、もう再度の文化暴圧にたいして、発言しなかった。進歩的な作家たちも、それについて理性からの批判は示しえなかった。舟橋聖一氏がこの間発表した「毒」という小説は、作品としては問題にするべきいくつかの点をもっているけれども、あのころ、わが身を庇うために、日本の知識人がどのくらい自負をすて卑劣になり、破廉恥にさえなっていたかという姿だけは、示しえている。
 個人の問題ではなく、文学の置かれている非道な境遇として、中野や私は、なんとかそれを全般の関心事としたかった。進歩的な精神をもち、行動も消極ではないある評論家を二人で訪問した。今回の情報局のやりかたは正しくないという意見の、雑誌編集者もいあわせた。いろいろの事情を綜合し、文学者たちの気分を研究し、つまり、意味ある反応は期待しがたいという結論になった。この時期になると、こわいものに近よらず、自分たちを守るのが精一杯、という気風
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