ないというわけかしら」
某氏は苦痛な眼つきでしばらく沈黙していた。
「――どうも。だいたい、自分に関係のあることだと感じていないんだから、しまつがわるいです」
こういうことがあってしばらくして、文芸家協会は改組した。ばからしい、いかめしい官僚組織になって、文学報国会となった。評論家協会は、言論報国会となった。文学報国会の大会では、軍人が挨拶をし、一九三一、二年代に、文学の純粋性といって、プロレタリア文学に極力抵抗した作家たちが、群をなして軍国主義御用の先頭に立ったのであった。
こういう文化上の悲劇、作家一人一人の運命についていえば目もあてられない逆立ち芸当をつとめるにいたった理由は複雑であろう。根源には、日本の近代社会のおくれた本質が、作家の全生活に暗く反映している。跛な日本の経済事情そのものから生じている出版企業の不安定と結ばれた作家の経済事情の、文明国らしくないあぶなかしさがある。それらのことから派生して、日本の作家はこれまであまり個々の才能を過大に評価しすぎたし、文学創造の過程にある心的な独自性、ほかの精神活動にないメンタルな特性の主張を、おおざっぱに文学の純粋性だの、文
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