ころでないと苦しむのか、ほとんど諒解に苦しんでいるあいてを伸子として避けられない容赦なさで傷けながら、その人をそのように苦しめているという意識で自分もますます逆上しながら。――
作者は、この社会に階級の存在するという事実や、自分が生れてそこに育った中産階級というものの歴史的な本質について当時は知っていなかった。したがって、「伸子」は、階級的意識によって分析批判されていない。けれども、こんにち日本がやっと人民の権利という文字をその中にふくんだ憲法をもつようになり、男女の人間的な対等が理解されて来たとき、四分の一世紀も前にかかれた「伸子」がこれまでになく広汎な各層の読者によまれているという事実は何を語っているだろう。「伸子」のテーマが今日の日本の若い女性の全生活においてまだ解決されつくしていない社会的な課題であることが告げられているのではなかろうか、結婚や家庭の本質について伸子のもった疑問、親子・夫婦の繋りを重く苦しいものにする様々の考えかたから互に解かれようとする意欲。人間同士の愛とか理解とか呼ばれるものはどういうものなのだろうかという伸子の問いかけさえ、今日の日本はまだそれを社会的な
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