こんにち、これらの文章をよむと作者自身を感動させる素直さと、正直さが全篇にあふれている。三十一、二歳だった一人の女として、ある程度文学の仕事に経験を重ねている作家として、中條百合子は、全身全心をうちかけて、「新しい世界」のカーテンをかかげ、その景観を日本のすべての人にわかとうとしている。自分の感動をかくさず、人々も、まともな心さえもつならば、美しい響きは美しいと聴くであろうという信頼において。
 ソヴェト紹介の文章そのものの率直さ、何のためらいもなく真直じかに主題にふれ共産党の存在にふれている明るさが、この事実を直截に示している。それからあとプロレタリア文化文学運動の圧殺されたのち、『冬を越す蕾』『明日への精神』が、辛うじて出版された時代の文章は、どうだろう。それはすべて奴隷の言葉、奴隷の表現でかかれなければならなかった。文章は曲線的で、暗示的で、常に半分しか表現していない。文章の身ぶりで主題のありどころをさとらそうと努力されている。そういう表現が強いられていたころ、もと書いたソヴェト紹介の文章は、作者自身にとってその直截さがまるであつい鏝《こて》のようにジリッときつく感じられた。
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