う石坂洋次郎の小説があった。そこでは歴史の或る時代の或る種の女の動きが、劇画化されて描かれた。題が同じだということばかりでなく、この「麦死なず」の詩に女の真情的なもので同じ現象が見られていると思う。女には

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しかしその時期の間に
少くとも年輪は一個ふえた
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事実が感じられているのは意味ふかいことである。
 すべての詩を愛す女のひとたち、あらゆる文学の仕事を愛しそれに従って行こうとする女の人々に私は特にこの詩集の中の「流れるごとく書けよ」の一篇をおくりものとしたい。

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  (前略)
あゝ腐葉土のない土に
種まく日本の女詩人よ
自分自身が腐葉土になるしかない女詩人よ
なれよ立派な腐葉土に。
あらゆることを詩でおもい
あらゆることを詩でおこない
一呼吸ごとに詩せよ。
日記をかくようにたくさんの詩をかけよ
手紙をかくようにたくさんの詩をかけよ
  (中略)
時々刻々に書き書けば
成りがたい彫心縷骨の一篇よりも
更に山があり谷があり
貴女の姿のまるみのみえる
逆説的の不思議はそこに
普段着のごとく書けよ
流れるごとく書けよ
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