方の文章と、どこかちがって来ているのは、どうしてだったろう。後半いまの風俗小説風の世相が女主人公の生活にふれて来てから、最後のむすびに到る間に、作者は一歩女主人公の心の内にせまって、たたかう心を見まもるべきであった。そこにこの小説のテーマがより深められ、じみちな生活のたたかいによって病む夫への愛の誠実さをこめて女主人公の人生に対する生きかたの選択が語られるはずであった。その点を作者ははっきりつかんでいない。抒情的にまとめられたのは却って弱くしている。
「やもめ倶楽部」には、闘病者が永年の間に経済問題から家庭を失ってゆく過程と心理とが描かれてゆく。これも、実に多いケースの物語であろうと思う。病者の孤独、そこにこもって孤独に耐えようとすることから主我的になってゆく心。孤独は「宿命」であるとして観念的になってゆく存在が、一つの転機をもって、孤独なもの同士のクラブをつくって人間らしさをとりもどしてゆこうとする。村田という病む人物と妻美津子との切ない関係は「縫い音」と対蹠する。村田の生きようとしてすさまじくなった心理も描かれている。この作品にも他の作品にもリルケの詩を愛読することがかかれている。
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