『トルストーイ伝』
――ビリューコフ著・原久一郎訳――
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)繋《つな》がり

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(例)[#地付き]〔一九四一年五月〕
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 数あるトルストイの伝記の中でも、このビリューコフの『トルストーイ伝』は、資料の豊富なことと考証の正確な点で、最も基礎的な参考文献であろう。これまであらわれたトルストイ研究は、その土台を何かの意味でビリューコフの伝記においていた。
 十六年前に第一巻が訳されて、全四巻が完訳されるのは今度がはじめてであるのだそうだ。完成の上は、日本の読者も心に親しいトルストイについておびただしい新しい知識を増すであろう。訳者の労も感謝されなければならないと思う。
 ビリューコフが、この精密をきわめた結果尨大な本とならざるを得なくなったトルストイの伝記を書きはじめたのは一九〇四年、ジェネヴァでのことであった。当時、宗教上の問題から国外生活を余儀なくされていたビリューコフがフランスで出版されるトルストイの作品集に添うものとして、執筆したのであった。
 伝記記者と
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