ようになって来ている。しかも、一般の習俗はスーザンの苦痛がわかる若い女の心は、例外だとするだろう。そこに日本の若い読者がこの小説から受ける複雑なものが考えられて来るのである。
 マークの死後、放心の状態におかれたスーザンは、ある夜眠られぬままに、群像をこしらえかけたままにしておいた納屋へ、ランプをもって入っていく。マークはもうこの世にいない。その恐怖は何と寒く烈しいだろう。その恐怖からのがれる道は、スーにとって燃えるその手で何かすることよりしかない。再び粘土がとりあげられた。彼女が何を創ろうと、もう愛する者の心を傷つけることはないであろう。スーは、孤独の代償として自由を甘受して、その群像を完成させた。マークは生前、この群像の女が、手に子供を抱きながら、その目ではどこか遠くを見ている、それを指して、君そっくりじゃないか、と非難めいた苦しい顔をしたのであった。
 群像を仕上げたスーは、ついに息子のジョン、娘のマーシャ、忠実な召使いのジェーンをつれてパリへ赴いた。一年分の金がある。その一年に、次の一年分を働き出さなければならない。スーザンは或るフランス人の仕事場《ステュディオ》に通って種々の
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