おくれた社会であることを、新しいおどろきとともに思いかえすのである。そして、女らしいとか女らしくないとかいう通俗のめやすから苦しみを感じさせられている私たち日本の女の経ている現在の段階にも思いがひそめられる。
「この心の誇り」という題で(実業之日本社、定価一円五十銭)鶴見和子氏がパール・バックのこの作品の抄訳を出している。パール・バックに会って、芸術家としての彼女の真摯な態度にうたれたこの若い日本の淑女は、作品の訳者として或る意味ではふさわしい人であったろう。抄訳であることは残念だと思う。生活に追われていない令嬢の一人として、せめて、根気よく完訳されたらよかったと思う。それから、序文のなかで、ところどころに「自分の感想を加え、原文と異っているところもあるが」と云われていることも、目的は日本の読者にわかりやすいためという気持からとはいえ、やはり余り有益なことでもないと思う。作品の短い紹介ならともかく、一冊の本にまとめる範囲の抄訳の場合、訳者が自分の程度で感想を加えることは、文芸の作品に対してとるべき態度ではない。作品そのもので語らしめなければならない。
鶴見和子氏の翻訳の方法や態度は、
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