ちは、手記そのものから、現代の人類的な課題をじかによみとることは出来にくいかもしれない。けれども、十七篇の一つ一つは、よしんばそれが断片的であろうとも、そのうちには本質的な問題がふくまれている破片である。そこには血のにじみのように、日本の社会・家族・親族関係の現実とその中におかれている婦人の矛盾した立場についての抗議や生活破壊への抗議が語られている。「女らしい生きかた」「女として生きる道」としてしつけられて来たその道、そのやりかたで、女はもう生きることさえかたくなっているのだという事実が示されている。
 この本が、同情と同感のためばかりによまれるべきだとは考えられない。わたしたちが生存を確保し、その上で、その人その人にゆるされた種類の幸福をとらえてゆくためには、この社会にどのような存在として自身をとらえなければならないかということについて、もういちどわたしたちをまじめにし、考え直させる本でもあると思う。
[#地付き]〔一九五〇年五月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行

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