察は、系統づけてされているゆとりがない。もがきの間に、ちらり、ちらりと頭を掠めている。生活との経済的なくみうちが前面にのっていて、しかも、これまでの日本の社会では、経済上、自立した一つの単位として見られることのなかった主婦、母たちのもがきであるために、苦悩と混乱とは名状しがたい。手記をかいている少数の人々の生活でさえそうなのだから、その日その日を、どうかして生きつなごうという、もがきで疲れ果てている二十八万余人の人々の姿と心もちは、思いやられるのである。
生別、死別ということは、社会主義の世の中になっても人間の生活にはつきまとっているだろう。苦痛と悲しみのモメントとしてあるだろう。けれども、このたび応募されている手記のように、戦争によって夫や父を殺された妻、母の苦しみは、人間生活におこる一般的な生別、死別の問題とは、本質からちがっている。戦争によって人生の道づれを殺された人々は、ほんとは戦争にその人たちを狩りたてた自分の国の権力そのものによって殺された人たちである。敵にころされた、というその敵の本体は、年々歳々の税によって養って来た厖大な軍事的政府の権力なのだった。
戦争によって配
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