「揚子江」
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)辛《かろう》じて
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 パール・バック夫人が主として中国人の生活を描いているのに対して、アリス・ホバード夫人は「揚子江」で、中国における白人の生活と闘争とを描いている。そして、この二人の作家は、永年に亙る中国での生活経験と観察との結果、それぞれに違った道から、共通な一つの結論に到達している。即ち東は東、西は西であるというやや絶望的な理解や中国の民衆は外国人もその宗教も必要としていないのだという結論を得ていることは、非常に興味ある点だと思う。パール・バックのいくつかの作品を読んだことのある読者は、「揚子江」一篇の中に、おやと思う程、互によく似通った作者の感想を発見する。例えば、「東と西のたたかい」という表現であらわされている両民族の融合しがたさについて、又「精神を押し潰すようにのしかかって来る支那民族の憎悪の念に打ちのめされ」る感覚。或は「精力が伝染するように無気力も伝染するもので、この太古のままに生きている人々の魂から、彼の活動的精神を毒するなにか鈍い毒気のようなものが、機械についた錆のように発
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