散されるのだ」そして、「少しずつ彼を吸いとって弱めてゆく微妙なあるもの」は「かつて彼等を征服したあらゆる民族を噛みこなした。」「過去数世紀に亙ってヨオロッパ人は、どんな困苦にも耐える決心で東洋の宝を――絹や硬玉の財宝や、あるいは哲学の精髄をヨオロッパに持ち帰ろうとしてやって来た。ところが、いままで自分たちの最も誇りとしていた何物かを失わずに獲物だけを得て帰ったものは殆どなかった」という言葉を読者は、極く似た云いまわしで、バック夫人もその作品の何箇所かで云っていたことを思い出しはしないだろうか。二人の作者が、社会機構の相互的な関係をぬきにして、東と西とを対置し、白人に黄色人を対置する特徴までも類似している。
 ヨーロッパ人を圧倒する中国のこの「微妙なあるもの」の力に最後まで雄々しく闘ったアメリカの性格の典型として、バック夫人は「母の肖像」を書いている。
 ホバード夫人は、「それが世界に通商をひろめて来た精神」である不屈不撓な事業熱をもっている船長イーベン・ホーレイの多難な生涯と揚子江上の荒々しい回漕事業の盛衰とをこの小説の縦糸にしているのである。
 中国の歴史がうつりかわるにつれて揚子江
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