ころ、如何なる国際列車もまだ乗換場所がいくつも必要だから」「パリ人というものは自身や他人の金利のことについて口を出さぬ。もしこれに一言でも触れようものならパリ生活の秩序は根底から破壊されてしまうのだ。それは日本に於ける義理人情の如きもので、この生活を破壊して自由はないのであった。思想は生活の自由を尊重すればこそ思想である。しかしその思想が市民の根底をなす金利を減少せしめ、自由の生活を破壊に導く火を噴き上げている現在に於ては市民の思想とは如何なる種類のものであろうか。」「義理人情という世界に類例のない認識秩序の美しさ」その「生活の秩序を完成さすためには人間は意志的に無になる度胸を養成しなければならぬ」而して「嘘のようなうつつの世界から」「一足さわった芳江の皮膚の柔らかな感触だけが」「強くさし閃いているのを感じると、触覚ばかりを頼りに生きている生物の真実さが、何より有難いこの世の実物の手応えだと思われて、今さら子供の生れて来た秘密の奥も覗かれた気楽さに立ち戻り、又ごろりと手枕のまま横になった。」これが、高邁というポーズを流行せしめた一人の日本の作家の「一人前に成長した」と自認するところの姿
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