ンナ、アンナ」
と姉をよびました。
「何故女には辛いの?」
 姉から得た答はこうでした。
「男の人達は何でも好きなことが出来るのに女はそれが出来ないから辛いのです」
 そして、後を向きアンナは、
「私はここに、あこがれを持っている」
と云いながら、両手をしっかり握り合わせ、音のする程自分の胸を打ちました。
「私はいつも持っていたのだし、これからもずっと持つだろう。ここに、燃えている、うずいている、そう云うあこがれを、持つようになると、貴方は――貴方は――」いきなりアンナは、まるで激しい調子でつけ加えました。
「私は男を憎む。男を憎む。大嫌だ」
 そして、ローソクを消そうとして、落し、部屋は真暗になりました。
 この数語は、小いロザリーの頭に刻み込まれました。アンナは、翌日はもうこの世の人でありませんでした。池に身を投げて死んでしまったのです。
 恐ろしい出来事の二週間後、ロザリーは愈々《いよいよ》ロンドンに出、或る寄宿学校に入りました。私立学校によくある通り、金持の娘達がまるで威張るのでロザリーのように学資の豊かでない、伯母のかかりうどの娘は、いろいろなことで、揶揄《やゆ》されたり、な
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