ととたたいたので琴をひくのをハタととめてしまわれる。「是は内裏から仲国と申す者が御使に参りました。おあけ下さいませおあけ下さいませ」とたたいてもたたいてもとがめる音もしなかった。けれどもややあってから内から人の来る景合[#「景合」に「(ママ)」の注記]したのでうれしくまって居ると鎖をはずし門をあけ、いたいたしいような美くしい小女房が顔許り出して「是は内裏なんかより御使をたまわる様な所でもございませんからまさしく間違えでございましょう」と云ったので仲国は返事をして門をたてられたり鎖をかけられたりしては悪いからと思ったのだろうか、やがてそう云う小女房を押しあけて内に入って小督の殿のいらっしゃる妻戸の間の縁にいざりよって云ったのには「どうしてこんな御住いにいらっしゃいましたか。君は貴女の御事故に思い沈ませられて御供もめし上らず御寝もゆっくり遊ばされず、只あてのない情ない事だと明暮思って居らっしゃいますが、御書を給わってまいりましたものを」とおそばに居た女房に御取次をたのんで君の御書奉るので開いて御覧になるとまさしく君の御書である。やがて御返事を御書になって結びながら女房の装束を一重ねそえてみ
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