いた男、幼い児共、みなせわしそうに西から東東から西に走って行くようにあるいて行く。逢魔ヶ時は今、若い女のかげにも老いた男の身にも一つずつの悪魔はうすいかげと一所について居る。耳の長い目の丸い体のほそい尾の長い魔は一人一人がすれちがう時にきっとその袂や裾や帯の間から一寸頭を出しておたがいに顔を見合せて人にはきかれない小さな声で「私はこれからこの若い美しい女をだんだんとおそろしい崖に近づけてそしてそこでポンとつきはなしてやらなければならない」とか「この立派な青年を金銭のためにうんとくるしめてそして自分で早く身を終る様にするのが私のつとめだ」等と云い合ってやがてヒヒヒヒと黄色な歯を出して笑いながらその人のあとをついて行く。つかれて居る人は一向そんな事には気をとめないで只気ぜわしく落つかないで歩いて居る。やがて時も段々にすぎて月の光が少し仄に出て来ると魔どもは小さい尾を背にまいて「今日の逢魔ヶ時はもうすんだまたあした」と云ってその帯なんかの間からそっとぬけ出して街のくぼちをおっかけっこをして居るように走る落葉等に交ってカサコソと変な音を立てて町をころがりぬけ又町を通りぬけして森の洞の住家にかえ
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