んしょう。まわりには武士共が大勢居るのに見っともないではありませんか」と云いあうけれ共此の女房は「今日会わなかったらいつ会えるか知れないのですもの」と急いで車にのって八條堀川の御堂に行って案内をたのむとおっしゃるので三位殿は、「私のまわりには武士共が沢山居てあんまりきまりがわるいから、車からお出になっちゃあいけませんよ」と門のわきに車を立ててずゥーと夜がふけて人のねしずまってから三位殿が自分から車のある所に行って会って今までの事行末の事なんかを夜っぴてはなして居られた。だんだん朝になって来たので人目にかかってはと云うので車のながえをめぐらして又もとの道へかえって行かれる。どこをやどと急いで行らっしゃるのだろう又、ただいつと云って□□[#「□□」に「(二字不明)」の注記]られたのだろうか、忍びきれぬ悲の様子は車の外までもれただろう。そのあとからすぐ正時を使にして歌を送られた。
[#天から3字下げ]会ふ事も露の命ももろ共に こよひ許りや限りならまし
 女房は、自分から墨をすり筆をとって返事を書かれたけれ共自分の翡翠《ひすい》のかんざしを結いてあるきわから插しきって返事にそえて送られた。その
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