、あの人は心づよい人だからと云うきまりがついたのかかまう人もなくなったので関寺のほとりにすまって往来の民に物をもらい、破れあれたあばらやに住み野辺に生る若菜、水のきしに生る根せりなんかをつんで露の命をささえたと云うためしもあるものですもの。もうおなびきなさい。私が自分で返事をしましょう」と女院から御返事があったとか云う事、
[#天から3字下げ]たゞたのめ細谷川の丸木橋 ふみかへしては落ちざらめやは
三位の君は有がたくも女院から小宰相殿をたまわって此の上ないものと寵愛して居られたが又小松殿の次男の新三位の中将資盛がまだこの頃少将であって節会に参内して見初めてさまざまにしたけれ共なびく景色もなかった内に三位殿の上になってしまったと云う話がきこえたので右京の大夫の局と云って中宮の御そばに仕えて居た資盛の北の方がそねましい心にでもなったのか一首の和歌を送られた。
[#天から3字下げ]いか許り君なげくらん心そめし 山の紅葉を人にとられて
資盛の返事には、
[#天から3字下げ]何とげに人のおりける紅葉ばに 心移して思ひそめけん
是も中々優美にやさしい事の例である、と云いつたえて居る。みめ形の
前へ
次へ
全52ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング