ある。」かどうかわからないけれども此の御方はきっと末には女御后とも云われる様にも御なりになるだろうと内々、人のうわさをする時などには葵女御等と云って居た。主上はいつの間にか此の噂を御ききになってからは一寸も今までの様に御召にならなかった。是んな事のあったのはほんとうに御志のつきたのではなく、只、世の中のそしりを思召ての御心であった。御心のつきて遊ばされた事ではないので御心がさわやかでなく、御供なんかも一寸もめし上らずよくも御寝遊ばされないほどであった。その時摂※[#「竹かんむり/(金+碌のつくり)」、第3水準1−89−79]の松殿が此の事を聞いて「さて、そんなに御考えるつみになるような事があるならば参内して御なぐさめ申さねばならない」と大急ぎで参内して申し上げるには「その様に御心までなやませ給うようになるまで世間をはばかって居らっしゃってはしようがございません。只今すぐその人を御召遊ばしませ。姓や素情を御さぐりになるにはおよびませんですから。やがて基房がよいようにとりはからいましょうから」と申し上げたらば主上は「位を退ってからはそのような事のあった例もたまにはきいて居たけれどもちゃんと
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