睨《へいげい》して集合する築地の有名な待合×××を、この新聞の読者の何人が日常の接触で知っているであろうか、という質問によって。――
 横光利一氏などが中心に十円会という会があるそうである。明治の初期、戯作者気質ののこっていた通人気どりの文士たちならば、ざっくばらんに「食おうかい」とでも呼んだであろうし、明治末葉から大正にかけての作家連であったらば、十円をつかって遊びながらも文化人、芸術家としてこの人生の発展のために彼等の負うている責任の重く遠いことの自覚を加えて、重遠会とでも名をつけたかもしれない。現代の少壮と目されている作家等が、むきだしに十円会と金だかだけの呼び名で一定のレベルの経済生活と文壇生活とをしているグループの会を呼んでいるのは実に面白いと思う。
 十円の金は十円の金で、どうでも使える。死金にもなり、悪銭にもなり、義捐《ぎえん》金にもなれば、自殺の旅費にもなるのである。どっちみち一夕十円標準でやろうと名をつけているのが、文壇人の経済事情、生存感情の推移とその現代性を語っている。菊池寛、久米正雄氏等の間では二十円会とか三十円会とかいうのがあるそうである。十円がもすこし育って
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