「伸子」について
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)内輪《ないりん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九三七年五月〕
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長篇「伸子」を書いたのは今から十年ばかり前のことで、完成までに三年位の時間がかかりました。『改造』へ一年に四度位の割で四五十枚から二百枚位まで時々載せてゆき、単行本にする時に全篇すっかり手を入れて大部ちぢめました。
当時はもう蔵原惟人の芸術論等が雑誌に出始めて居り、プロレタリア文学運動がそろそろ緒につきはじめていた頃でしたが、私は全くそういう方面には接触がなく、世田谷の駒沢の家で、毎日五枚位ずつこの小説を書いていました。
余談になりますが、この駒沢の家へ移ったのは、もう「伸子」を書きはじめていた私が、その最初の春に、それまで住んでいた小石川の家の二階の階子段から下まで辷り落ちてひどく体を打って耳鳴りがするようになったので、それではしばらく郊外に住んだ方がよかろうと駒沢に移ったのでした。その大家が本庄という軍人で、その人は満州に行っており、細君がしっかり者で借家の監督をや
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