っている。その人から借りたわけでしたが、当時はぼんやりしていたが、満州事件が起ってから新聞で見ると、かつて大家であった本庄という軍人は、外ならぬ関東軍指令官の本庄大将であるのが分って、ほほう、というような訳でした。
この小説は題が示す通り、一人の若いインテリゲンツィアの女が、人間的な生活を求めて或る一人の男と結婚をしたが、その結婚生活がその女の求めていたような理解の上に営むことが出来ないため、女も男も苦しみ、女が主動的にそれを破壊するに至った過程を描いたものでありました。「伸子」という主人公の立場から凡ての周囲の人間関係を描いて居り、作者はこの小説で、世間で、愛情と呼ばれて通用している男女の間の感情でも、それが人間的に互を高めるものでなければ、そういう大局的な見通しと叡智とを持ったものでなければ本質的な愛とは言えないこと。そのような愛でない愛を、愛として夫婦生活の上に押しつけ、当人もそれに納っているような社会の卑俗な常識に抗議をしている。一人の女のそういう経験は、その女が広い人間的生活への要求から経験されている以上、社会的な意味と内容とを持つ性質のものであるという確信が、当時の作者の
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