「三人姉妹」のマーシャ
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)[#地付き]〔一九二五年六月〕
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「三人姉妹」で、マーシャがどんな風に活かされるかと楽しみにしていた。三人の女性の中では、一番性格的に色彩が強い。その強さが内面的で、動作はごく簡単だがひどく意味深い。マーシャを演じる俳優は、少い台詞と台詞との間に、内へ内へと拡り燃え活動しているマーシャの魂全体を捕えていなければならない。人間として密度の細かい心の疲れる性質と思われる。
 芸術座の人々が、自分達の持って生れた言葉でやってさえ、なかなかうまく行かなかったのだそうだから、翻訳文の欠点が当然つきまとう外国語でして、いきなり本物になれないのは寧ろあたりまえであろう。然し、マーシャが自分にひどく物足りなかったのは、其理由だけではないようだ。――勿論マーシャの心持全部をそれだけで象徴しているあの、緑なす樫の詩句が、何処か我々に耳遠い「……ありき」と云う調子で第一に暗誦された為、マーシャが変にいやみに、思わせぶりになったと云う
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