壁をのばしている。
「郵便」と書いた板の出ている小さい入口をわれわれは入って行った。ここに、鎌と鎚工場の工場新聞の発行所がある。そして、文学研究会の中心になっているのだ。
工場内へ通じる狭い柵の横に一人赤衛兵と、二三人の男がかたまっている。そこは一本の廊下だがその辺には工場委員会|共産党青年《コムソモーリスカヤ》ヤチェイカの札が見えるだけで、どこに新聞発行所があるかわからない。
自分は、柵のところに立ってる男に、「新聞発行所はどの室ですか、」と訊いた。
「つき当って、右に折れたところだよ」
「そっちへ行って見たが、ありませんよ」
赤衛兵と、引越したのか? そうじゃあるめえなどと云い合った後、その男は云った。
「じゃ、左の第一番目の戸をあけて見なさい」
外からの気勢《けはい》では到って静かだ。ソーッとあけて見た。いる! いる!
つき当りの壁から左へ鍵のてに卓子が並んで、真中に赤い鼻の丸まっちい「ラップ」の作家タラソフ・ロディオーノフが、鳥打帽かぶって、黄色っぽいレイン・コートをひっかけたまま坐っている。
二十人ばかりの職場からの若い連中が集っているのだが、椅子が人数《ひとかず
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