うことも、あながち、自身の気質によりかかったとばかりは云えまい。椎名麟三も、日本へ帰りはじめている。
ひとくちに、戦後の文学、戦後の作家とよばれている現代文学の素質に、このように日本独特な精神の国内亡命が、因子となって作用している事実は、見のがされてはならない点である。
第二次大戦、ファシズムの惨禍を、日本の戦時的日常の現実を、通じて生死しながら、精神では大戦前のレジスタンスを知らないフランス文学に国内亡命をしていた人々の矛盾は、おそらくその人々に自覚されているよりも激しく、こんにち日本の文学に国内亡命をしていた人々の矛盾は、おそらくその人々に自覚されているよりも激しく、こんにち日本の文学の空虚さに作用していると考えられる。
このことは、「俘虜記」から「武蔵野夫人」への大岡昇平についても考えられることではないだろうか。スタンダリアンであるこの作家の「私の処方箋」(群像十一月号)は、きょうのロマネスクをとなえる日本の作家が、ラディゲだのラファイエット夫人だの、その他の、下じきをもっていて、その上に処方した作品をつくり出していること、或は歴史性ぬきの下じきを使用することをあやしまない
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