感じているのは、日本の文学の、もの足りなさである。納得のゆく方向に立って生活の実体とともに歩みすすめられてはいるのだが、その足どりは、まだるっこい、という種類のもの足りなさではない。現在、感じている日本文学のもの足りなさは、それが未熟だからでも、稚拙だからでもなく、それどころか、どの作品も趣向はそれぞれにこらしてあって、手綺麗に色もとりどりであるけれども、そのあまりにも多くが、駅の売店につられている派手なセロファン人形だ、という、そのもの足りなさである。たくさんの字をよむが、そこに動きと色彩があるだけで、魂がない。その空虚さが堪えがたく、作家であり、同時に読者であるわたしたちに迫っている。わたしたちが、単に読者であるばかりでなく、同時に作家でもあるということは、現代文学のこのような空虚に対して、鋭い苦痛をよびさまされる。わたしたちが読者であるばかりでなく、作家でもあるということは、ただそのような現代文学を軽蔑してすむことではなく、そのような文学を発生させている日本の社会の状況そのものを改めて直視して、その追求の過程で、こんにちに実在しているより真実で強固な人間性とその文学の主張を生かし
前へ 次へ
全22ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング