「ゴーリキイ伝」の遅延について
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九三六年十二月〕
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私が、ゴーリキイの評伝を一冊にまとめて見たいと思った動機は二つあった。一つは、どちらかというと外部的な事情であった。
ゴーリキイが亡くなった後、私は、数篇の感想や評伝的なものを書いたのでそれをきっかけとして、一冊の本にまとめたら読者も或はゴーリキイを理解する上に幾分の便利をされるのではないかと思ったことであった。
もう一つの理由は、ゴーリキイが偉大な作家であるということが一般の通念になっているために、そこから二つの態度が生じている。その一つは、ゴーリキイを無条件にプロレタリア作家の先達であり、父であると見る態度であり、他の一つは、それに対してやや皮肉に、ゴーリキイが偉いというのは成程そうであろう、だが他にもっと偉い作家というのは何人かいる。何もゴーリキイがなくたってやってゆけるのだし、自分らが、ゴーリキイの真似をしないだっていいのだ。ゴーリキイはゴーリキイだ。そういう態度である。この二つの目
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