所がないんです。機械はどこへおきましょう? 結局ここは工場で、母性保護施設ではないんですからな。」
 憤慨してメーラーが叫んだ。
「それが労働婦人が主人のソヴェトの工場ですか!」
 インガがきっぱり云った。
「私が機械のための場所は見つけます!」
「すると……」
 ニェムツェウィッチは執念深く云った。
「僕がこれまでやったことは。すっかりフイというわけですか?」
「タワーリシチ、ニェムツェウィッチ! 貴方が設計図のやり直しを厭うからと云って、私は労働婦人たちに必要なものを許すことは止めません。もう托児所のことには署名がすんでいるのです。」
 この技師とトラストへ出かけようとするインガを、ドミトリーが傍の思わくもかまわず止めた。
「用がある」
「あとで。――私はトラストへ行くんです。」
「――俺に一分の時間をさけないのか? 他人とは三十分も喋ってるのに。」
「みんなは、そういう調子で私と口はききませんよ。」
「どんな調子で云ったらいいんだ? 到頭俺が、いやんなったのか? 俺あ中学校は卒業してないんだ。」
 二人きりになったとき、インガはドミトリーに云った。
「何てこと? ドミトリー! 何
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