に鋏で突いた。これが満蒙出兵だそうです。すると、猿は、虎、狼などが集まっている国際連盟にかけつけて、告げ口をしている。しかし、蟹は眼尻をつりあげて柿の木の下にがん張っています。その絵のところにはこう書いてある。
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「昔の猿蟹合戦では、子が仇をうった。けれども今は子や孫が仇うちをするということは出来ない。何故なら満蒙はわれらの[#「われらの」に傍点]生命線であるから一旦これを切られたら永久に死ななければならないのだ」
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これは陸軍省で描いたものです。みんなは感心して、「なる程ねえ」といって見ている。小学校の六年生ぐらいの女の子が突然群集の中から大きい四辺かまわない声を出して、
「満州をとっちゃうと、もっと金や何かとれて得するねエ」
と云うと、一緒に見ていた若い学生がさすがにきまりわるそうな小声で、
「とるんじゃないよ」
と云った。(成程ブルジョア新聞には満州をとる[#「とる」に傍点]とは書いてない。)
「じゃ借りるの?」
「――さア、何ていうのか――」
うまく説明がつかないで、そのまま黙ってしまった。
絵はいろんな色がつかってひどく人目
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