ぼ》せている。係の店員が「御気分のおわるい方は救護所がございます!」と叫んでいる始末だ。「モダン猿蟹合戦」という絵物語が、みんなをこんなに吸いよせているのです。
 猿蟹合戦のはなしを知らないものは子供だっていない。そこをうまくつかまえ、猿を支那にしてある。蟹は日本です。
 蟹が日清戦争で遼東半島というデカイ握り飯を貰ったら、熊(これは帝政時代のブルジョア・地主のロシア)虎(フランス)狼(イギリス)が出しゃばって来て日露戦争で握り飯を蟹からとりあげ小さい柿の種(北満)をおしつけた。百姓姿の蟹は仕かたがないから、その柿の種にせっせと肥しをかけ(二十七年の歳月。十万の聖霊、二十億の投資と書いてあります。)やっと柿の実(石炭、石油、大豆、燕麦その他)をみのらしたら、その出来がいいので猿がやっかみ出した。
 柿の実を盗もうとして、日本の南満州鉄道を囲む鉄道を幾条もつくった。だが蟹は青いカンシャク面をしながらこらえていたら、猿は図にのって柿の木を根っこから切り倒そうとしはじめた。これが九月十八日の満鉄爆破であると。爆発した線路で汽車が顛覆しそうになっている物凄い絵が描いてある。そこで蟹も我慢出来ず
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