民地にしようとして狙っているのは日本のブルジョアばかりではありません。アメリカのブルジョアもイギリスの資本家も目を離さず隙をうかがっている。日本のブルジョアだけに甘い汁を吸わせてはおかない。アメリカのブルジョアは南京政府、蒋介石を抱き込んだ。イギリスのブルジョアは関東政府を抱きこみ、日本のブルジョアは北満、蒙古にと陣どり、支那のブルジョアを手先につかって、めいめい激しい支那分けどり争いをやって来ていたのです。
何故、では、今年も末になって、満蒙事件が起ったのか。
中村大尉が技師にバケ込んでいたのをころされたからでしょうか? 長い長い南満州鉄道の線路をタッタ二メートルだけ壊されたからでしょうか?(絵はウソを描いている。汽車なんぞひっくりかえりはしなかった。)
もちろん、そうではありません。
お互の日常の暮しがそれを示しているとおり、昨今の不景気は話にならない。この不景気はメドがつきません。資本主義の世の中は行き詰ってしまって、十二月になっても政府の予算が出来ないという有様だ。首キリ絶対反対! 労働賃銀値下げ反対! 税を〔三字伏字〕! 都会でも農村でも、搾られている勤労大衆は、ケッ起してブルジョア・地主に〔四字伏字〕ています。
ブルジョアは絶体絶命です。
この世の中をブルジョア・地主の天下として、資本主義の経済=搾るものと搾られるものとの対立した生産関係=でやって行こうとすれば、不景気はなおりっこない。
不景気は直らないと知って、ケッ起した勤労大衆の力は、天下をやっと取っているブルジョア・地主を今にもひっくり返しそうなところまで高まって来ている。
ひっくりかえされては最後だ。ブルジョア・地主は必死の力をしぼって、政府をいろんな形にかえようとして見たり、ダラ幹無産政党を総動員して大衆の鋭い力に対して自分たちの用心棒となるブル反動御用「労働クラブ」をつくろうとしたり、見栄をすてて奔走している。
正しい道理では何としても勤労大衆の要求と押して来る力にかなわないから、仕様がない。腕ずくでタタんじまえ! というせっぱ[#「せっぱ」に傍点]つまったところまで、ブルジョア・地主の世の中は〔二字伏字〕して来ているのです。何とかして大衆の力をたたき潰す折はないか。自分たちから、あの恐ろしい数千万の働くものの眼をそらさせる方法はないか。実にあせっていた。
そこへ、幸い中
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