ません。調馬師が自分の預かっている馬を故意に痛めて出場不可能ならしめ、それによってうまうまと大金を得る例はこれまでもいくらもあったことです。時には騎手を手に入れて八百長をやらせたり、また時には、もっと確実で、分りにくい方法を執ることもありますが、この場合は果してどうでしょう? ストレーカのポケットにあった品物を見れば、何かこの間の消息を知る手懸りがありそうなものだと私は思いました。
その品物は果して役に立ちました。お忘れもありますまいが、ストレーカは不思議なナイフを握って倒れていました。あれは決して普通の人間の持つナイフではありません。ワトソン君も申した通り、あれは極めて緻密な外科手術に使うメスの一種です。しかも、まさしくあの晩は緻密な手術をするため用意されていたものなんです。大佐、あなたの競馬に関する広い経験をもってすれば、馬の膝膕部《ひざかがみ》の腱に、外面に何んの痕跡をも残さず皮下手術的にちょっと傷をつけることは容易であって、しかもそれをやられた馬は軽い跛《びっこ》を引き出すけれど、調馬中に筋でも違《たが》えたかそれとも軽いリウマチスに罹ったかということになって、不正の行われた
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