して、みんなが降りてしまったのにまだ馬車の中に残っていたことを覚えていらっしゃるでしょう。あの時私は、こんな明瞭な手懸りがあるのに、どうして今まで見逃していたろうかと、我れながらつくづく驚いていたのです」
「と仰しゃられてもまだ私にはさっぱり分りませんなあ」
大佐はいった。
「あれが私の推理の第一階梯となったのです。阿片末は無味なものではありません。匂いは不快ではありませんが、すぐに知れるものです。だから普通の料理にこれを混ぜれば一口でそれと気がついて食べるのを止《や》めてしまいます。そこでカレーを使えばこの味を消してしまいます。全くの他人であるフィツロイ・シムソンが、この夜あの一家に、カレー料理を食べさせるように仕込んだろうなんてことは、全然想像も許されないことです。それかといって、阿片の味を消す料理の出た晩に、折よくシムソンが阿片を使うつもりで来たと考えるのも、あまりに奇怪な暗合というものです。そんな馬鹿なことは考えられません。だから、シムソンはこの事件から除外することが出来、その夜の御馳走をカレー料理と定《き》めることの出来る人、すなわちストレーカ夫婦に我々の注意は集中されるわ
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