へ引揚げます」
ホームズはいった。
「おかげでダートムアの美しい空気を、しばらく呼吸させていただきました」
これを聞いて警部は呆気にとられ、大佐は唇に冷笑を浮べた。
「では、ストレーカ殺しの犯人は捕まらんと断念されたんですか?」
ホームズは昂然として、
「非常な困難が横《よこた》わってることは事実です。それにしてもこの火曜日にあなたの馬が競馬に出られることは、相違あるまいと思われます。どうか騎手の御用意をお忘れないように。それから、ストレーカ氏の写真を一枚拝借願いたいと思いますが」
グレゴリ警部はポケットに持っていた封筒から一枚取出して、ホームズに渡した。
「グレゴリさんは私が欲しいと思うものはいつも先廻りして用意しておいて下さるですね、有難う。ところで、しばらく皆さまにお待ちを願って、女中に二三質問したいことがありますが――」
ホームズが部屋を出て行くと大佐は露骨にいった。
「ロンドンなんかからわざわざ探偵を呼んでどうも馬鹿を見ちゃった。あの男が来てからこればかりも捗ったことか!」
「少なくとも白銀が競馬に出ることだけはホームズは保証しましたよ」
私は口を入れた。
「なる
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