のままがいい。それについては後で手紙を出そう。もう狡《ず》るいことをするじゃないよ。さもないと――」
「大丈夫です! どうぞ私を信じて下さい」
「当日はあくまでもお前さんのもののように扱ってくれないと困る」
「どうぞ私にお任せ下さい」
「よろしい、安心していよう。では明日手紙を上げるから」
ホームズはブラウンが震える手をのべて握手を求めたのを構わずに、くるりと向きを代えてそのまま私と一緒にキングス・パイランドの方へ帰って行った。
「サイラス・ブラウンのようなあんな傲慢で臆病で狡猾な三拍子そろった奴を見たことがない」
ホームズは歩きながらいった。
「じゃ、あの馬を持っていたんだね?」
「初めはつべこべと誤魔化そうとしたから、あの晩、いや朝のあいつの行動を正確に話してやったら、図星を指されたと見えて、とうとう兜を脱いだよ。僕が見ていたとでも思い込んだらしく。君はあの足跡が妙に爪先が角ばっていたのも、ブラウンの穿いていた靴がちょうどそれに適合する形だったのも、無論気がついたろう。そして部下の使用人にはこんなことが出来るものじゃないことも――だから、僕は毎朝あいつが一番に起きる習慣であるこ
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