」
「おや、そうですかいやいやたしかにお目にかかりましたよ。あの時あなたは鳩色絹の服に駝鳥の羽根の飾りをつけて、来ていらしったじゃありませんか」
「いいえ、私はそんな服はもってはおりません」
「ああ、それでは間違いでした」
ホームズはちょっと失礼を詑びて、警部を追って外へ出た。荒地《あれち》を通って少しばかり行くと、死体のあったという凹みへ出た。凹みの縁《へり》にははりえにしだ[#「はりえにしだ」に傍点]の藪が繁っていた。そこへストレーカの外套はかかっていたのである。
「その晩は風はありませんでしたね?」
ホームズは訊ねた。
「風はちっともありませんでしたが、雨はどしゃ降りでした」
「そうすると、外套は風に吹き上げられたんじゃなくて、誰かがそこへおいたんだということになりますね」
「そうです。灌木の上へちゃんとのせておいたものです」
「ふむ、面白いですね。地面はひどく踏みにじられているようですが、兇行以来いろんな人が歩き廻ったんでしょうね?」
「いいえ、ここんところへ莚《むしろ》を敷いて、みんなその上にいることにしました」
「そいつはよかったです」
「この鞄の中にストレーカの穿いて
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