いた靴を片っ方と、フィツロイ・シムソンのを一つと、それから白銀の蹄鉄の型を一つ持って来ました」
「ほう! それあ大出来でしたな、グレゴリさん!」
 ホームズは鞄を受取って凹みの底へ降りて行き、莚を真中の方へやってその上に腹這いになり、両手に顎をのせて眼の前の踏みにじられた泥を注意深く研究していたが、突然、
「や、や、これは何んだ?」
 と叫んだ。
 ホームズの発見したものは泥がついて、ちょっと見ると小さな木の枝か何かのように見えたが、蝋マッチの半分ばかり燃え残ったものであった。
「はて、どうして私はそんなものを見落しましたかな」
 と、警部は少し苦い顔をした。
「泥に埋《うず》もれていたから分らなかったんですよ、私はこいつを探すつもりでいたから見つかったんです」
「えッ! 初めからあるものと思って探しにかかったんですか?」
「あってもいいはずだと思ったんです」
 ホームズは鞄から靴を出して、それを泥の上の型に一つ一つ合せてみた。それから凹みの縁《ふち》へ上って来て、羊歯や灌木の間をうろうろと這い廻った。
「もう何んにもありゃしますまいよ」 
 警部はその後姿を眼で追いながらいった。

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