横切り、そしてハーレイ街の中ほどまで下って来るまで、お互いに一言も口をきき合わなかった。
「ワトソン、あんな馬鹿な奴の所へ、下らなく君を引っ張り出してすまなかったねえ」
 遂に、ホームズは口をひらいた。
「しかしあの問題のどん詰りまで行けば、面白い事件なんだよ」
「そうかねえ、僕には全然分からない」
 私は正直に白状した。
「とにかく何かの理由で、このブレシントンをつけねらってる男が二人、――いや、ことによるともっといるかも知れないが、少くも二人いる、と云うことはたしかなんだ。僕は最初の時もそれから二度目の時にも、例の若い男がブレシントンの部屋に忍び込んだに違いないと思ってるんだ。そしてその間片方では、共謀者が、実に巧みな計略で、例の医者を診察室の中へとじこめちまっていたんだ」
「だがしかし一人の男は顛癇病の患者だったのじゃないかね!」
「なあに、君、ありア仮病さ、ワトソン君、なんだか専問家に僕のほうで教えるような形になって変だけれど、その真似をして仮病をつかうぐらいのことは何でもないんだよ。僕にだって出来る」
「ふむ、――で、それから?」
「それからだね、前後二回とも、ブレシントンが
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